特定非営利活動法人ECOPLUS
ワールドスクールネットワーク
2003年度国際研修フォーラム


ロビーニコルさんの講演内容(その5)

 教育と持続可能性についての話は日本文化の一つの例を取り上げて終りたいと思います。高野さんが教えてくれたのは衣服の穴を繕うことに関わる伝統的な習慣です。それは、生活の重要な面として見られました。折れた縫い針を集めてある特定の日にそれまでの労をねぎらうという慣習があります。

 この例が示すのは、ある文化があるものに価値をおく方法であり、ある特別な日を設定してあるものや出来事に重要な意味を持たせるという地域のあり方なのです。この日を特別に扱うことで過去でも現在でもその地域が何に価値をおいているのかを示すのです。この例の中に重要なポイントがあります。それは、文化の持つ目に見える部分と見えない部分とどう向き合うかです。この例の場合には見える部分は特別な日が設けられ、地域の人々が互いにそれを祝っていることです。しかし、最も重要なことは祝われているものは目に見えないものということです。目に見えない部分とは、倹約をよしとし、無駄使いをするのではなく、再度使えるものは捨てないとすることです。

 私はこの例を通し、持続可能に生きるためここへ戻れといっているのではありません。もちろん、過去から学ぶべき点は多いですがそうではなく、この例が示しているのは、私たちがある文化の中で生きることはいかに簡単で、同時に目に見えるものと見えないものの違いに気付かないものだというものです。

 見えるものと見えないものは、ともに地域を結ぶ接着剤のようなもので、この接着剤は共有された意味や目的をうまく社会に織り込んでくれるものです。私たちがここで地域の概念によって整理しているものは、持続可能な社会における目に見える面と見えない面についても明らかにしてくれます。それによって、持続可能な社会が花開くような状況を作ることができます。その意味では私たちはある目的に添って社会を構築しており、それは意志を持ったコミュニティといえるでしょう。

 これは必ずしも大量消費や近代文化をすべて否定するということではありません。たとえそうしたいと思ってもそれは不可能でしょう。大量消費社会を築き上げた力は、ある地域から影響を与えることのできる範囲を超えています。これは持続可能な社会造りにあたって非常に重要なコンセプトです。それは、一人一人、そしてグループや地域が関与できる範囲でなくてはなりません。ですから、「世界を救う」というような概念はその規模からいってプロジェクトが大きすぎるという点で適当ではないのです。

 それでは、針供養から生み出せるものは何でしょう。それは、今日の日本の若者にとって何を意味するでしょう。別の疑問として、もし針供養が私たちが使うすべての物に適応するとしたらこれは基礎教育や持続可能性の原則となるでしょうか。

 この部分のまとめとしては、環境とは、人々が生活し仕事を営む環境のすべて、自然環境と作られた環境。地域環境と世界環境、社会環境と文化環境のすべて指すということです。これらの教育を実際に取り入れるという点から見ると、持続可能性は家庭で始まります。その際2つの出発点があります。1つは一人一人から、もう1つは地域からであります。

 最後に文化の多様性について申し上げたいと思います。ある文化にいる人が他の文化から何を学ぶでしょうか。

 この発表の中で私は私自身の文化に根差す学者のことを触れるのを避けました。特定の文化が持続可能が提示する問題への完全な解決策を持つかのように示してしまうことを避けたかったからです。

 これまでに見たように持続可能性の取り組みは一人一人から、そして地域から始まります。持続可能性の出発点は文化に根ざしているということです。世界の歴史、そして現在の出来事を見ると文化の違いが戦争や飢饉を引き起こしています。私は持続可能性を文化的な側面から語るのには、非常に慎重にならないといけないと思います。私はスコットランドで育った観点から私の考えを話しています。これは私の文化的背景に根ざしているともいえます。その意味でこの考えが最終的な解決策であると言っているのではありません。話し合いを始める道具として提供しているのです。

 話し合いのポイントは私たちが合意できる原則をどのように組み立てることができるかです。それによって、普遍的なテーマ、私が前にあげたような教育的提言のようなものを探せるのです。しかし、ここで考えなくてはなりません。もし、普遍的なテーマを私の文化の観点から提案すれば、それは押し付けになります。人々が私の文化の考え方に適応するのを期待することになります。もし私たちが文化的な多様性の重要性を認め合うならばこのアプローチは正しくないでしょう。しかし、もしある課題のために話し合って合意すれば、その課題について私たちは納得しあえるのです。このように意見の一致に達すればそれは、文化的に幅広いものになります。

 それは簡単なことだと言っているのではありません。ある文化の習慣は変らなければならないこともあるでしょう。しかし、ここで提言したいのは持続可能性のために重要な変化が期待されるとき、その変化はできるだけに幅広く実施されるべきだという点です。

 文化的多様性には注意を払うべきですが、教育と持続可能性の分野において世界共通の課題については、持続可能な社会に向けた原則を個人、地域、そして地球規模のそれぞれのレベルでうまくかみ合うように構築するように検討することが大切なのです。そうすることでどのような合意が出来るのかのレベルを認識し始めるのです。

 私が指摘したいのは、意見の一致を探り始めるには他の文化に根差した考え方や慣習を理解しなければならないということです。もしこれをしなければ、一つの国の文化だけでの解決策に頼るという危うい状況に迷い込むことになり、文化的な慣習を変えることのできる世界的な力に対抗できなくなります。例えば、南アメリカの熱帯雨林が材木や家畜作業の目的として伐採され、それによって熱帯雨林の人々の文化も変ってしまったということが起きるのです。

 私は同時に文化を保存しなければならないと言っているのではありません。ある意味そうしたくてもできません。歴史を見るといかなる文化もある意味で変っているのです。文化は環境の状況に応じて変ります。例えば、私の故郷では1万年前に氷河が後退したとき、人々は新しい土地に居住し始めました。また技術の発展にも応じます。例えば、ポリネシア人の航海技術は、彼らが新しい土地を見つけ移住することへとつながっていきました。重要なことは歴史が示すように、すべての多様な文化は、決してじっと止まることなく、そして今日でも今まで以上のスピードで変化しているということです。持続可能性の取り組みにおいて、私たちは過去を見つめ、自分たちの文化的な伝統を尊敬しなければなりません。と同時に将来を見つめ、どんな文化の実現を目指すかを考え、それに向けて計画をしなければなりません。  

では、まとめを申し上げたいと思います。今日は、人間と自然の関係というテーマで話をしました。相互関係、つながりというところで人間はその安寧のために自然に依存するということも申し上げました。ここで教育はどんな役割を果すのかという設問は大変に重要で、野外体験学習がその感覚を磨き、つながりを学ぶ良い方法であるということです。自然体験が、自然と人間の関係の開発に大変大切であるという研究が発表されています。野外で学ぶということが楽しいだけではなく、より深い疑問を心に湧き上がらせるきっかけとなるのです。

 ただ、「持続可能性とは何か」という論議に迷い込むことには注意を払うべきだと思います。もちろん、定義は重要です。しかし日常生活に無縁の抽象的な概念の話し合いばかりに時間を費やしてはならないと思います。そこから離れることで、新しい議論と実験と普及に関するアイデアが出てきます。それと同時に、この種の研究には理論的な支援があると感じております。多様な認識論の考えがあるゆえ、知識というのは感情でもあり、合理的でもある。この枠組みの中で教育者は持続可能性をいかに教えるか、そして、学習者は持続可能性をいかに学ぶかを考えましょう。この枠組みの中で、あらゆる形態の知識は行動と関係しているのです。そして、人は生涯どの時期でもこれを学べます。また、この分野の教育は適切な範囲があります。個人として、小さな組織として、プロジェクトとして、あるいは地域社会としてです。

 また、教育と持続可能性の概要についても包括的に説明しました。しかし、注意しておきたいと思います。私の意見は私の文化を背負っているということです。自分たちが生きている文化の中で私たちだれもが育てられることからして、当然のことです。文化の多様性というのは尊重されなければいけないし、ある1つだけの文化が正しいという意見は避けなければいけません。私のここで言っている教育というのは、伝統、歴史観を持ち、そして、しっかりと現在に足を落としながら目は将来をというものです。その地域の場所の重要性や人々相互の関係の大切さ、さらには自然の生態系を価値を認識する教育です。

 最後になりましたけれども、エコプラスとワールドスクールネットワーク、そしてこの会議を可能にしてくださったすべてのボランティアの方に感謝を申し上げたいと思います。特に、ここに私を呼んでくれた大前さんと高野さん、ありがとうございました。彼らの仕事、エネルギー、打ち込み方には頭が下がります。そして、ここに招待されたことは光栄でした。また、この発表についてアイデアをもらったピーター・ヒギンズさんに感謝したいと思います。今日来ていただいたすべてのみなさん、忍耐強く私の言う事を聞いてくださいましてありがとうございました。この会議が、新しいプロジェクトの促進に役立ってほしいと思っております。時に、新しいプロジェクトを進めるのは難しいことがあります。どこから始めていいかわからないからです。こういうアドバイスで終わることにしましょう。
 「まず自分の足元から始めなさい」と。アリガトウ。

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