知恵だより 113号

Jan. 3 2000

野鳥の天国?

背の高いアシが渡良瀬遊水池全体をおおっています。アシは多くの生き物の住みかとなっているのです=渡良瀬遊水池で

2000年1月3日 気温:4度 天候:晴時々曇り 風向き:北東
出発地:栃木市栃木駅前=北緯36度22分27秒/東経139度43分51秒
到着地:渡良瀬遊水池旧谷中村慰霊碑=北緯36度14分11秒/東経139度39分15秒
歩いた距離:15Km

 渡良瀬遊水池は、日本国内では釧路湿原に次ぐ第二の広さのアシ原です。同時に日本の工業化と公害の歴史を示す存在です。また、その特長ある自然の姿を活用しようとする試みも行われています。栃木市からここまで気持ち良く歩いてきたあと、午後は渡良瀬遊水池の歴史と特長を学びました。

 栃木市からの出発は、この旅の一番最後の区間のはじまりになります。もう東京は南の方角100キロ足らずです。この栃木県南部から埼玉、東京と都市化が進んでいて、どこも似たような姿になっています。

旧谷中村の人たちは、この背の高いアシの中に住んでいたのです=渡良瀬遊水池で

 渡良瀬川を渡って、遊水池全体を見渡すことができる堤防の上を歩きました。湿原一帯に、金色に輝くアシが広がっています。北西から吹き渡る冷たい風が、午後の光の中にアシのてっぺんをゆらせて吹き渡っていきます。渡良瀬カントリークラブのゴルフ場の茶色くなったフェアウェーの中を、ゴルファーたちが次々と歩いていきます。この光景から、ここがかつて足尾銅山からの汚染された水の沈殿池だったとはとても思えません。

 渡良瀬遊水池は、これまで僕が通ってきた中で、一番の大規模に光景が変わった場所だと思います。これに次ぐのは、八郎潟でしょう。今日、案内役をしてくれている田中正造大学の坂原さんによると、遊水池は、足尾からの汚染した水があふれてさらに公害が広がることを防ぐために作られました。「川の流れは完全に変えられたのです」と、かつて川が流れていた西の方角を示してくれました。

渡良瀬遊水池の南西の堤防からは、リクリエーションに使われる運動広場と人工池を見渡すことができます=渡良瀬遊水池で

 「遊水池は、銅山からの汚染水をためて、それが川の堤防を越えて問題を起こさないよう、いわば浄化そうとしてなったのです」と、日本野鳥の会の高松さんはいいます。川の流れは大きく変えられ、33平方キロメートルの湿原のこちらからは見ることはできません。

 遊水池は、現在では東京地区に対する非常用の水源として、またゴルフ、ウォータースポーツや自然愛好者らのリクリエーションエリアになっています。遊水池近くに住む人たちは、農地を汚染から守ることができる恩恵を受けました。しかし、遊水池地区からほかの場所に移転しなければならなかった人たちは大きな打撃を受けたといいます。

 舗装された歩道をいくと、かつて谷中村があった場所に着きました。足尾銅山の汚染水を集め、被害の拡大を食い止めるために、この湿地を使うことを政府が決めたときに、村人たちは強制的に移転させられることになりました。田中正造はこの移転反対のために最後までたたかったといいます。「足尾と渡良瀬遊水池は、生きた教材なのです。村人と田中正造が、自分たちの村を守り、足尾の公害に反対してたたかったから、いまこうして学ぶことができるのです」と坂原さんはかみしめるようにいいます。

 谷中村のいくつかの名残がなく、案内してくれる人の説明がなければ、渡良瀬遊水池が語りかける歴史の教訓は、簡単に見逃してしまうでしょう。高松さんと坂原さん、その仲間たちは、歴史は記憶されるよう、また特長ある自然が活用されるように努力しているのです。

 遊水池の自然は、汚染の痛手から回復してきているので、いまでは多くの野生生物が住むのにいい条件になりつつあります。高松さんは「ここには210種の鳥、700から800の植物、1400近い昆虫がいます。一年のさまざまな時期を通じて、17種のワシやタカがやってきます。ワシたちの十分なえものがあるということです。そのえものにとっても十分なエサがまたあるのです。このアシ原には、巨大なエコシステムがはぐくまれているのです」といいます。

 「私たちは、この遊水池の今の姿をそのままにして、何ができるかということを考えたいのです。遊水池には長い歴史があります。人々が、歴史や、ここ特有の植物や動物のことを学ぶことができるようにしたいのです」と高松さんはいいます。

 太陽が湿原の西に傾いてきました。南の東京の方角を見ました。東京周辺の住宅地帯でどんな自然の歴史を知ることができるだろうかと思いました。都市に住もうが、農村部に住もうが、現在の風景のなかに、大事な歴史が埋もれています。渡良瀬遊水池での自然と人の歴史をよみがえらせようとする活動は、私たち自身の社会についてどのように学ぶことができるのかというヒントがあるように思いました。

 みんなの住んでいる場所には、どんな自然の歴史がありますか。

 グレッグ

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